猫を飼う。
そう決めた後の行動は、驚くほど早かった。
あれほど「結婚したら〜」と数年も様子見していた人間とは思えないスピードで、私は動いた。
人は、諦めがつくと強い。
ペット可、駅そこそこ近い、部屋数、家賃も納得。
そんな現実的かつ切実な条件を満たす物件を見つけ出し、ほぼ勢いだけで引っ越しを完了させた。
猫をお迎えできる住居を確保した私は次のステップ、理想の猫を迎えるために。
――そう、「みんなの子猫ブリーダー」を開いた。
もともと癒し目的で日々眺めていたサイトである。
完全に“見る専”。買う気ゼロの人間が、急に当事者側に回った瞬間だった。
そして検索条件はもちろん「メインクーン」。
どうせ飼うなら、でかくてモフモフな猫一択である。
そんな中、私は出会ってしまった。

画面に現れたその子は、もう完全に“毛玉”だった。
いや、正確には毛玉を極限までかわいくした存在。
ブリーダーさんの撮影技術も相まって、ふわっふわ感が尋常じゃない。
そして何より、目。
つぶらなブルーの瞳。
完全にやられた。
あとで調べて知ったのだが、これは「キトンブルー」と呼ばれる子猫特有の目の色らしい。
現在?
黄色なのか黄緑なのかよくわからない、いわゆる“THE・猫の目”に進化している。
でもそれすら愛おしいので問題なし。
紹介文にはこう書いてあった。
「兄弟の中で一番大きな子です」
――はい、優勝。
大型猫を飼いたい人間にとって、この一文は強すぎる。
毛色はレッドタビー、性別はオス。
条件もすべてクリア。
もはや「選んだ」というより「選ばされた」に近い。
「とりあえず見学だけ」
そう思って向かった私は、まだ冷静だった。
このときまでは。
実際に会ったレドは――
めちゃくちゃ警戒してる。
知らない人間が来たらそりゃそうなる。
ずっとブリーダーさんの後ろに隠れていた。
完全に「この人こわいです」モード。
さっきまでの“毛玉の天使”はどこへ。
――まあ、シャイなんだな、それはそれでかわいいんですけどね。
そして、抱っこさせてもらった瞬間。
写真で見たふわふわの毛玉が自分の手の中に。
柔らかくて暖かな毛玉、そして知らぬ人間の手の中にいるという恐怖で震える毛玉…
はい、終了。
理性、ここでログアウト。
情が移るとはこのことか、と人生で一番納得した瞬間だった。
とはいえ、もともと「見るだけ」のつもりだった私。
当然、お迎えできる現金なんて持っていない。
完全に準備不足である。
しかし気持ちはもう決まっている。
ここで帰るという選択肢は存在しない。
結果――
近くのATMにダッシュして、そのまま振り込み。
即日契約締結。
冷静に考えると、人生で一番フットワークが軽かった日かもしれない。
契約を終えたあとは、お迎え可能日までもうひたすら楽しみだった。
「本当に猫がいる生活が始まるんだ」
その現実感に、ワクワクが止まらない。
不安?
このときはほぼゼロ。
なぜならまだ、
お迎えした直後からまさかの病院通いになるなんて、
このときは何も知らなかったからである。
